プロモーション

多くの人の熱意と思いによって形となった「ならしかトレイン」

近畿日本鉄道株式会社のラッピング列車「ならしかトレイン」をご存知でしょうか。

TwitterやInstagramでも画像がよくアップされますし、好意的なコメントも多く、制作に携わった人間としては、とても嬉しい限りです。

ならしかトレイン 大阪上本町駅にて

「ならしかトレイン」は、当社が近畿日本鉄道株式会社から企画開発・制作を請け負い、約3年半の準備期間を経て、2022年12月から走行を開始しました。

この列車は主に神戸三宮から大阪難波を通り、近鉄奈良までを走行します。奈良へ向かうためのテンションを120%高められるように車両の内外は“可愛い鹿”でいっぱいです。もともとは普通列車をラッピングしたものですが、クライアントの思いと作り手のアイデアを詰め込んで、ちょっとした観光列車とも言えるぐらいのこだわった電車が出来ました。

近畿日本鉄道からは2019年に計画のご相談をいただいたそうですが、当時は私が担当ではなかったので、当時の担当者にヒアリングした内容を元に記載します。

――――――

その時からご担当者のオーダーは「“可愛い鹿”で溢れた電車にしたい」というものでした。当時のプロジェクト呼称は「バ〇ビ列車」。(あの、世界的に有名な小鹿のアニメーション映画のタイトルです)

また「若い人や外国観光客などの“今”の感性に響くようなアーティストを起用し、イラストを描いて貰いたい」というご希望もありました。

そこからまずは作家探しの日々。ネットで人気の“神絵師”と呼ばれる方から新進気鋭のイラストレーターまで、様々な候補をクライアントにぶつけては方向性を探りました。

アイデアの中には「有名なアニメーション作家を起用して、その方にオリジナルのアニメーション作品を制作してもらい、それを車内で放映する」といったものもありました。実際に、某テレビドラマのタイトル映像を手掛けるアニメーション作家に話を聞きに行ったこともあります。(費用や設備条件、スケジュールのため断念しましたが。)

最終的にクライアントの意向に合致したのが、イラストレーターの「げみ」さんです。

光や透明感を感じさせ、優しげなタッチで描かれるイラストはどこか儚げでもあり、綺麗だけでなく「日本的な美や情緒」も、表現豊かに描かれる作家さんです。げみさんの起用で、愛らしい鹿と共に「奈良の四季の美しさを、華々しく鮮やかに優しいイラストで表現する」というコンセプトが固まりました。

げみさんの美しくも優しい外装イラスト

このラッピング列車は内装もこだわりが詰まっています。「子鹿の背中の白い斑点」をデザインモチーフにしたシートや、ふっくらとデフォルメした鹿のお人形が可愛らしいつり革。いずれもこの列車のためだけにオリジナルで制作されています。こういったデザインをひとつずつ、作家やデザイナーと一緒に作り上げていくのも私達の役割です。

小鹿の斑点をモチーフにしたシート
可愛い鹿のつり革

床全面には緑の芝生を模したパターンのシートを敷き、車内にのどかで美しい奈良公園(若草山)の雰囲気を作り上げています。実は床装飾は汚れや劣化の心配があり、なかなかハードルが高い試みでした。一緒になって考えて、「やっぱり、ここまでやらないと!」と言ってくださった近畿日本鉄道のご担当者の熱意もあり、実現したアイデアです。

緑の芝生を模した床面が目にも鮮やかな車内

実はこの列車はもう少し早く世の中に公開されるはずでした。しかし新型コロナウイルス感染症が流行した影響で、デザインが一旦完成した2020年初夏で計画は一時中断、一年以上も状況を見合わせる状態が続きました。「3年半の準備期間」と書きましたが、これはまさに異例の事態。“お蔵入りになるのでは?”…という思いもありましたが、無事出発の日を迎えることができました。

――――――

当社はクリエイティブディレクション兼、プロジェクトのマネジメント役としてこの仕事に携わっていますが、「列車を丸ごと装飾する」というのは実はかなり大変なことです。第一にとても大きいので、用意しなければならない情報やデータ、使用する材料、数々の調整ごと、そして作業する人数も相当なボリュームになります。3年半の異例の長期間だったために実は私は当社でも3代目の担当者で、前任者達の思いも引き継ぎながらの仕事でした。

クライアント、デザイナー、作家、施工セクションスタッフ(そして私の前任者)、多くの人の熱意と思いによってこの「ならしかトレイン」は生み出され、今日も元気に阪神・奈良間を駆け抜けています。この列車を見かけたり利用されたりしたときに、なんとなく嬉しい気持ちになって、「鹿って可愛い」「奈良っていいね」という気持ちになってほしいと願っています。